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カイロこぼれ話

GRIT JAPAN最新作は豊洲カイロプラクティックの伊藤友円先生である。

カイロという知っているけど意味を知らなかった言葉は、ギリシャ語でカイロが手、プラクティックは技術であるということは本文の方でも書いた。

 

そしてこれは本文には書いていないことだが、実は私も一度だけカイロを受けたことがある。30代まで肩こりを知らず、40に差し掛かってようやくマッサージが気持ちの良いものだなあということを知ったが、自腹でマッサージを受けたのも後にも先にも一度きりである。翌日の揉み返しが嫌になって更に足は遠のいた。

 

ある時期頭痛がやたらにひどい日が続いた。一度整体なりカイロなりにいってみたらという妻の勧めでカイロに行ってみたのである。その頃すでに妻は豊洲カイロプラクティックに通っていたが、わざわざ遠い豊洲まで行くこたあないなと思い、近所のカイロに行ってみたのである。

どこのカイロ院もそうだろうが、一回の施術がだいたい5,000円で、何回か通って欲しいと言われる。そのカイロ院は5回分の料金で6回受けられる割引チケットを売っていた。2万5,000円はなかなかの出費だなと思いながらもその回数券を購入することにした。というのも、それ以前に体調を壊していたこともあって病院に行き、そこで先生にこのままだったらあんたはがんで死にますと言われて食生活の改善に乗り出したりしていた頃だったので、自分の身体のためにお金を使ってやろうという気持ちになっていたからである。

 

実際の施術は可もなく不可もなくといったところで、ソフトなマッサージだなくらいな気持ちに身をまかせていた。状況が変わったのはカイロプラクターが私の顎と頭に手を回した時である。反射的に私の身体はこわばった。実際のカイロを知らなくても今これからやろうとしていることは明らかだった。首をひねってポキッである。恐怖と防衛本能で瞬時に硬直化した私をみてカイロプラクターは笑いながら力を抜いてくださいと言った。しかしそう言われれば言われるほど力を緩めることは私にはできなかった。

 

あ、こんなところで死んだら洒落にもならんと思うのは大げさであろうか。首をひねってポキッならぬポックリ行かぬ証拠はあるのか。おぬしさては私の命を狙った刺客だな。施術師に扮装して待ち受けていたのだろうがそうは問屋がおろさぬ。私はベッドから転げ落ちるようにして床へ降り、側転しながら転がっていくそばから床に手裏剣が立て続けに突き刺さる。しゅたたたたた。やはり忍者であったか。私は転がりながら自分の荷物までたどり着くと立てかけてあった伝家の宝刀をしっかとつかみただちに抜刀し、飛んできた手裏剣をライトセイバーよろしく払い落とす。敵は手持ちの手裏剣がなくなったと見え刀を抜こうとしたがそのときすでに私の刀は鮮やかな弧を描いて振り下ろされ、しぱぱぱぱぱと飛び散る鮮血。あまりの切れ味に敵は刀を持った手首から先がなくなったことに5秒ほど気づかなかった。静寂から一転阿鼻叫喚。残った手でなにかを投げるとばふんと煙幕。私は警戒の姿勢で五感を研ぎ澄ますが、視界が晴れた頃には忍者の姿はなくなっていた。

 

そんなことを妄想しているうちにハイ終わりましたと言われる。6回行ったが最後まで首ポキはできなかった。結局よくなったんだかどうだかわからないまま私のカイロ経験は幕を閉じた。たぶん筋骨格系に悪いところはなかったのだろう。しかしそんな体験があって伊藤先生には首ポキ案件についてはぜひ聞きたいと思っていた。そしてその回答には大変満足のいくものだった。先生はどう答えたか。それはぜひ映像をご覧になって先生自身の言葉を聞いてほしい。