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梅花亭こぼれ話

GRIT JAPANの新作、神楽坂梅花亭をご覧になっていない方はまずそちらをご覧ください。

 

妻は神楽坂梅花亭の大ファンである。独身時代神楽坂で飲み歩いていたときに梅花亭を知りたちまちにファンになったという。私たち夫婦は今年で結婚10年目を迎えそれすなわち出会ってから10年目でもあるのである。なんなのそれという方は直接お問い合わせください。それはともかく私もすぐに梅花亭を教えてもらったので梅花亭の味を知って10年になり、神楽坂へいく用事があると決まって梅花亭のお菓子をお土産にしたりした。

 

厳選された素材を使い人工的な添加物を入れないというだけでなく、お菓子どれをとっても非常に手がこんでいるのは今回のお話を伺う以前に商品ひとつひとつから感覚的に理解できていた。まずにもって梅花亭のお菓子はみな上品である。大福などの餅菓子は一般的な大きさよりもすこし小ぶりであるが、上品さはその大きさからくるのではない。やはり中のあんこが上品というのが本当だろう。それはお菓子の種類によってあんこを作り分けているという今回の話を聞いて納得した。それからただ甘いだけじゃない豆の味がするあんこを作っていると知ってなるほどそういうことかと理解した。

 

私は和菓子には目がない。中学生の頃親戚のうちで灯油を配達するアルバイトに行ったときのことだ。三時になりおじさんがおいなんか大福でも買ってこいといってお金を渡してくれた。ちょうど斜向いに和菓子屋があり私はそこで大福を人数分五つ買って帰った。するとおじさんがおまえ五つも買ってきたのか、大福なんてだれも食わねえぞと言ったのである。買ってこいと言われたから買ってきたのにだれも食わねえとはずいぶんな言われようである。おじさんもその息子たち(私のいとこたち)も甘い物など食べないというわけである。おじさんは三時のおやつに自分の分を買ってこいという意味だったと言った。ここで意気消沈ならぬ狂喜乱舞したのは他ならぬ私である。それじゃあと手を伸ばして一つ食べ二つ食べ……またたくまに五つ食べてしまった私をおじさんは目を丸くして言った。おまえ五つも食べたのか。それから数年おじさんは聡史は大福五つ食べるからなと話題にした。

 

かようにして私は和菓子に目がないのである。梅花亭の大福なら十個くらいわけないのである。そんなふうに食べないでじっくり味わってほしいと井上さんは思うかもしれないが、じっくり味わっていただいても十個くらいわけないことを申し上げておこう。

 

私は洋菓子も好きだがとはいえケーキを十ピース食べることはできない。脂質の量とかカロリーが違うというのは数字の上での話であって、単純にそんなに欲しないだけである。おそらく前世であんこに貧しい思いをしたためにそれじゃああんまりだってんで今生ではあんこを欲するのかもしれないと思案した。

 

今回の撮影では見た目の美しさ、作る工程の技術的見どころなどの理由から上生菓子を用意していただいたが、本来茶会用の菓子のため日常的に食べる機会はあまりないだろう。日常のおやつといったら草餅とか桜餅とか柏餅とか大福とか饅頭とか団子とかに決まりであり、梅花亭の味を知ってもらうにはまずこういった菓子から味わっていただくのがいいのかもしれない。もちろんお土産として利用しても最高である。相手があんこ好きなら必ず喜んでくれるだろう。日持ちしないので当日食べるのが前提にはなるが。

 

映像では騒音が大きくお聞き苦しくて申し訳ない。業務用冷蔵庫のファンがたてるノイズがどうしても入ってしまう環境だった。編集で最大限修正をしていてこの大きさに収めることができたが、ご覧になるひとはもとの音量を知らないのだからやはりうるさく感じてしまうかもしれない。撮影機材も含めてよりレベルの高いコンテンツを提供するためにGRIT JAPANを一緒に育てたいという方がいましたら遠慮なくご連絡ください。

 

最初に井上さんと打ち合わせをさせていただいたとき、初代であるおじいさんのシベリア抑留生活の話がとても印象的だった。だから私はコンテンツの文章パートにその話と自分が感じたことを盛り込むことにした。そして井上さんに文章チェックをしてもらったところ、パイプの話に及んだのである。あのパイプの写真は後日改めて伺い撮影させていただいたものである。井上さんに家宝であるパイプを撮りにきませんかと言われたとき、GRIT JAPANの信念を理解していただけたような気がしてとても嬉しかった。