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アンティークウォッチの撮影 つづき

昨日に引き続き、アンティークウォッチの撮影について。

アンティークウォッチと書いているが、実はアンティークである必要はなくて、新品未使用と中古という括りで撮影技法はわけることができる。

 

なぜ新品未使用品と一度でも使用した時計で撮影技法が異なるのかと言えば、それは一重に反射の問題である。新品時の鏡面仕上げというのは使い始めるとあっと言う間にくすんでしまう。それは肉眼レベルではまだピカピカのツルツルに見えても、マクロ撮影で大きく寄ると実はすでに細かいキズだらけであることがわかるだろう。

 

そして、一度キズがついてしまうと光の反射の仕方は新品とはだいぶ違ってしまうのだ。

それがアンティークウォッチのレベルになると、かつて鏡面だったところも完全にくすんでしまっているから、こと反射という面においては新品よりも気を使わなくて良い分撮影が楽と言える。

 

新品時計の撮影はただひたすら反射との戦いである。業界的には反射のことを映り込みと呼んでいて、その映り込みをいかにコントロールするかに神経を使うのである。映り込みは通常映り込みをなくすことにエネルギーを注ぐのではなくて、「なにを映り込ませたいか」に力を入れるべきである。目指すところは同じであっても、この意識の違いが最終的な仕上がりに決定的な違いをもたらす。

 

撮影に不慣れなうちは映り込みを消すのに躍起になって、あちらを立てればこちらが立たずの無限ループに陥りがちだ。そうした作業は疲れるし、どうしてもネガティブなマインドを生み出してしまう。楽しい写真撮影のはずが楽しくなくなってしまうだろう。

 

反対に、この鏡面になにを映り込ませよう、そしてその結果どのような写真に仕上げようと考えて取り組めば自然とクリエイティブマインドも向上し撮影そのものが楽しくなり、できた写真もきっとよいものになるに違いない。

 

もちろん満足のいく写真を得るためにはマインドだけでは不十分で、技術も伴わなければいけないが、少なくとも新しいことを学ぶ意欲は前向きなマインドからしか生まれてこない。

 

さて上の写真の時計について語らないわけにはいかないだろう。

この時計は妻のもので、つまり(妻だけに)レディースウォッチである。

スイスのエテルナというメーカーが作った時計だ。エテルナはかつてスイスにおける時計業界の巨人とまで呼ばれたほどの大企業だった。エテルナの成功は高効率な自動巻きを開発したことによる。

従来の自動巻きは回転錘(ローター)をネジ止めしているだけだったが、エテルナはここに極小のボールベアリングを仕込むことで、ローターの回転を飛躍的にスムーズにした。時計の12時位置にある5つの点はそのベアリングを象徴しており、エテルナのアイコンとなった。

 

エテルナ・マチックと名付けたその自動巻きムーブメントでエテルナは実用時計の覇者となる。エテルナの凋落はエボーシュSAに参画するためにムーブメント製造部門を切り離し別会社にしたことに始まる。そのムーブメント製造部門は言わずと知れたETA SAであり、のちのスウォッチ・グループの中核をなす企業へと成長するが、本体であったエテルナはやがてその歴史に終止符を打つのであった。

 

ちなみに現在でもエテルナというブランドは存在するが、かつてのエテルナの面影はまったくない。

 

この時計はエテルナの古き良き時代の香りがする。直径は19ミリだが文字盤(風防)は15ミリと台形型をしている。当時レディースウォッチはとにかく小さくなくては売れなかったのだろう。しかし自動巻きムーブメントを小さくするには限界がある。ローターが小さくなりすぎると軽すぎて回転しづらくなってしまう。それでもケース外径を19ミリに抑えた。そして文字盤側をすぼめることで見た目に小さいデザインを演出した。

 

今回クローズアップして気がついたが、この小ささでも長針の先が曲げ加工してあった。この大きさで秒針がついていることも珍しいが長針の曲げと合わせて精度にも自信があったのだろう。細かいところを眺めてなお、そして全体を見渡してさえ、時計の造りが非常によいと感じる。直感で選んだ妻はなかなかの審美眼があると言えよう。