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スピーカースタンドを自作する

スピーカースタンドが必要な理由は二つある。

ひとつはトゥイーターと耳の高さを揃えるためである。高域は減衰しやすいため、トゥイーターが耳よりも上とか下にあるとスピーカーから出ている本来の音が聞こえなくなってしまう。

 

もうひとつはウーファーから出る音の反射を減らす目的である。スピーカーを机に直置きの場合、ウーファーから出る音が机に反射して、ウーファーから直接出る音と混じって音が濁ってしまうことがある。それに机の天板が薄いと共振してこれまた音を濁す原因となる。

 

この二つの理由により、スピーカースタンドは必須アイテムなのである。世の中スピーカースタンドを名乗る製品は山程あるが、実際に探してみるとこれぞというものはなかなかない。その一番の理由はサイズである。だいたい大きすぎるものが多いのだ。ぴったりの物が欲しい。ならばオーダーメイド、ならば自作するしかないではないか。

 

思い立ったが吉日とばかりに、まずは設計図を描いてみることにした。高さは11センチ上げる。スピーカーが乗る台はスピーカーと同じ外形寸法にする。ぴったりそろった美しいスタンドを目指すのだ。一番悩んだのは脚の部分である。どのようにして宙に浮かせるか悩みどころである。よくあるのは真ん中に支柱を立てて一本足で支えるタイプである。しかしこれは製作上の難易度が高いだけでなく、見た目の不安定さが嫌で却下である。

 

四本脚にするか三本脚にするかは難しい問題である。見た目の美しさはやはり三脚であろう。ぼくもとりあえず三脚でいくことにした。丸棒を三本立てて脚とするデザインを考えてみた。とりあえずはよしとするが、実はこのデザインには大きな問題があるのであるが、それは後ほど説明したいと思う。

 

早速ホームセンターへ行って材料を物色する。台になる天板と底板に何を使うかは実は決めていて、それはアカシアの集成材である。アカシアは木目と色調が好みなので無塗装で使うつもりだ。それにアカシアは適度な重さがあって強度も十分ありスタンドの材料として向いているのではないかと思う。本当は底板を20ミリ、天板を10ミリでと考えていたが、15ミリ厚しか売っていなかったので上下15ミリとなった。

 

悩みどころの脚材が決まらずに材木コーナーを行ったり来たりする。丸棒は希望の太さがない。それにもし仮に丸棒を脚にした場合の位置決めの難しさにぼくは逡巡していた。大きな問題があると言ったのはこのことである。天板底板をぴったり同じ位置で固定するにはどうしたらよいのか思いつかない。だから丸棒案はダメなんじゃないかとずっと考えていたのである。

 

すると角棒を四隅に配置するか。それなら簡単に位置合わせができるが、見た目が美しくない。たぶん無骨でカッコ悪いに違いない。どうしようどうしようと行ったり来たりしているうちにひらめいた。板を脚にして中央に向かうように配置したらどうか。それなら強度的にも強そうだし、見た目も悪くないんじゃないか。それで良さそうな材木を物色すると、細長いSPF材というのが目についた。良さそうである。幅60ミリ、厚さ19ミリ、長さ900ミリの板があったのでこれでやってみよう。

 

 SPF材は色が明るすぎるため塗装が必要である。そこで塗料コーナーをうろちょろして見つけたのがウッドアトリエという塗料である。塗料といってもワックスのように半固形で、刷毛ではなく布などでこすりつけて塗る塗料である。乾燥時間が圧倒的に短くて30分と書いているのも早く作りたいぼくには都合がいい。

 

さて、材木が揃ったらホームセンターでカットしてもらおう。こうした加工は大型の機材があるホームセンターでやってもらうのが一番きれいに仕上がる。まちがっても自分でノコギリを使って切ろうなんて考えてはいけない。まっすぐ切るのがどれほど難しいか。

 

材料が揃ったらいよいよ工作時間の始まりだ。

まずカットしたときにできたバリをヤスリで削る作業である。SPF材は柔らかいのでささくれができやすい。あれば紙ヤスリが便利だろう。ぼくは紙ヤスリがなかったのでプラモデル用のヤスリで削った。ここで大事なのはあくまでもバリ取りだけをすることである。材料の角を丸めてしまわないように注意が必要だ。

 脚が8本あって、1本に切り口が2箇所あるので地味に面倒だが、気長にバリ取りをしよう。ちなみにアカシア材は硬いためバリがでない。

 

バリ取りが終わったら塗装する。スポンジやウエスでこするようにと書いてあるので、いらなくなった服を切って塗ってみた。このとき木目に沿って塗るのがコツである。塗りムラはそのまま残る上、乾燥が速いので間違えると修正がちょっと大変である、とやってみてわかった。塗料のように塗るというよりは、木目に刷り込むようにして塗るといったほうが適切かもしれない。

 

塗った脚は立てて乾燥させる。そのとき下に敷いたのはカットした後に残った端材である。こうした端材も別な目的で役に立つことがあるので捨てずに持って帰ってこよう。

 

塗料が乾燥したら乾いた布でごしごしこする。そうすることでアンティーク調というか、使い込んだ風合いを作り出せる。これがこの塗料の真骨頂らしい。塗装が終わったらいよいよスタンドの組立てである。

 

まず板にガイドラインを鉛筆でひく。鉛筆にしておけばあとで消しゴムで消せるため鉛筆を使っている。ぼくはガイドラインをこのように対角線に引いた。この線に沿うように脚を配置するのである。

 

接着剤にはコンクリボンドを使用した。たまたまうちにあったからという理由だけであるが、コンクリと名を打っているが木材に対しても非常に強い接着力を持つ。完全硬化したら腕力じゃ剥がせないレベルである。木工用ボンドなど比較にならないほど強いので、今回の作業にはピッタリである。

 

乾燥が速いので塗ったらどんどん貼っていこう。まず爪楊枝で薄く伸ばして、すかさず目的の位置にぐっとのせる。緊張する瞬間である。ガイドラインがちょうど脚を二等分する位置にこなければいけない。片面全部を貼り終えたらしばらく放置して乾燥を待つ。完全乾燥は24時間だが、1時間ほどでほぼくっついてしまう。

 

色はまさにコンクリート色

ちょっとぐらいずれてても気にしない

最後に天板を合わせる。まずは仮置きして位置決めの線を鉛筆で引いておく。脚のほうに接着剤を塗布してひっくりかえし、天板と一気にくっつける。このときさっき引いたガイドラインが役に立つ。くっつけたら上からぐっと押して圧力をかける。そしてこのまま乾燥を待たずにスピーカーをのせてしまう。スピーカーが重石代わりというわけである。

 

完成!はじめて作ったわりには結構かっこよくできたのではないだろうか。唯一の残念点と言えば、脚もアカシア材で作ればよかった、ということ。なんでこんな単純なこと思いつかなかったんだろう?脚は棒状でなければならないという固定観念が邪魔した。どうせ切るんだから棒状である必要などなかったのである。そうしたら全部無塗装で済んだし、統一感も生まれたはずである。素人の底の浅さを図らずも披露してしまった形となった。

 

まあ、その代わりと言ってはなんだが、こすって塗る塗料を見つけたし、SPF材がどんなものかを知ることができたのだから勉強代ということにしておこう。