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NATURAL SILK

A7IV, Sigma 105mm Macro F5.6 ISO100

森を散歩していたら足元にこんなものが落ちていた。全長6センチほどある大きな繭だ。おそらく、というか希望を込めてヤママユガの繭だと信じたい。ヤママユ蛾はカイコ蛾の原種である。天蚕と呼ばれている。だからこの繭から糸を採ったらそれは天然の絹ということになる。

 

実物を見るのは初めてである。地面に落ちていたのでもしかすると死んでいるかもしれないが、もしかすると生きているかもしれない。そう思って持ち帰ってきた。もし生きていれば7月から8月ごろに羽化して立派なヤママユガの成虫を拝めるだろう。妻は蛾ということで難色を示したが、これが天蚕(かもしれない)であると言ったら許してくれた。着物を着るのでシルクには理解があるようだ。

 

ヤママユガの成虫は口がないらしい。これはすごいことだ。幼虫のときに溜め込んだエネルギーだけで一週間ばかりの生を過ごし、その間にパートナーを見つけて子孫を残し死んでいく。もし見つからなかったら儚く空を舞って散っていく。儚いだなんて思ったけども、ヤママユガの一生の大半は繭の中で過ごしている。幼虫でいる時間よりもずっと長い時間を繭の中で過ごす。繭の中でゆっくりと体を再構成してゆっくりと生まれ変わってゆっくりと冬の厳しさから守られて過ごす。

 

一生のほとんどを眠りながら夢を見ながら過ごす。外界の厳しさはほんの少しの自由を味わえればそれでいい。案外ヤママユガのほうが賢いのかもしれない。

 

A7IV, Sigma 105mm Macro F8 ISO100