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ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ

 

「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」ジョン・ル・カレ著

 

 

 

「裏切りのサーカス」という映画を観た。観たのだが内容が込み入っていて色々と釈然としない。そこで原作を読んでみることにした。全然知らなかったが、本作はイアン・フレミングの007シリーズと並ぶ二大スパイ小説なのだそうである。そしてこちらはジェームズ・ボンドの派手な立ち回りに対比するように徹底して地味である。

 

 

 

時は冷戦時代。放逐された主人公である元スパイが、イギリス諜報部で暗躍する二重スパイを暴き出すという物語である。これだけ聞けば血沸き胸躍る、或いは手に汗握るスリリングな展開を期待してしまうが、物語は一貫してそうさせないように細心の注意を払って進められていく。最後に二重スパイを捕らえたときでさえそうだった。実にもどかしい。しかし読者はそのもどかしさの中に興奮を見つけてページをめくる手を止められなくなる。

 

 

 

映画を観たとき、二重スパイがだれであるか判明した瞬間があまりにもさらっと流されて肩透かしをくらった印象だった。だけど、これが超有名小説でテレビドラマにもなったと知れば、だれが二重スパイだったかというのは今更当たり前のことだったのである。そこの温度感を知らずに映画だけ観てしまうと、ぼくと同じようにあれ?と思ってしまうだろう。

 

 

 

「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」はジョン・ル・カレスパイ三部作の第一部だそうである。というわけでさっそく第二部にあたる「スクールボーイ閣下」を図書館で予約した。イギリス人にとって、この三部作は国民的小説ということになるらしい。そしてぼくはこの歳になってようやくその存在を知り読んだ次第である。