秋は光の色が一年の中で一番美しいと思う。
こんな光の中だったら誰が撮ってもいい写真が撮れるね、と午後三時の光が差し込む
丸の内の一角で師匠が言っていたのを思い出した。
最近はよく師匠のことを思い出すのである。
もちろん誰でもという言葉を真に受けてはいけない。でも写真がそれほど上手ではない人だっていつもよりはきれいに撮れるだろう。それほどにこの季節の光は美しい。
秋は美しいが一年中秋というわけにはいかない。春や夏や冬でも秋のように光に
助けてもらうと思ったら朝か夕方に写真を撮るのがいい。
映像の世界ではMagic timeと言って、撮影する時間帯として朝や夕方は嫌われている。
どうしてかというと、撮影前の準備に時間がかかり、かつ撮影そのものも時間がかかる
映像の場合、光の量や色が刻々と変化してしまうのはたいへん困るからである。
例えば二人が会話しているシーンを撮影していて、一人は顔に夕日があたっているのに、
もう片方のひとに画面が変わったら日が暮れていたなんてなったらおかしいでしょ?
だから朝と夕方はできるだけ撮影をしない、したくない時間帯ということになっている。
"Magic" timeなんて名前は素敵だけれども、光の量や色がどんどん変化するのがMagicなのであって、撮影で奇跡がおきるわけではない。
ところが、個人で写真を撮るとなるとMagicはまさに撮影者にとっての奇跡となって現れる。
夏の朝もやの幻想的な風景、乾燥した空気が透明度を高め、複雑な色彩を放つ冬の夕暮れなど、そうした一瞬を切り取れた写真はまさにMagicと呼ぶにふさわしい。
夜景も独特の雰囲気があって美しいが、美しい夜景を撮ろうとすると三脚が必須になってしまって面倒くさい。基本身軽派のぼくは手持ちで撮れる朝や夕方の時間帯のほうが断然好みである。
どうぞみなさんも夕暮れ時にお試しあれ。いつもの当たり前の風景が当たり前ではなくなるかもしれませんよ。