地元のひとしか知らない地元のお祭りというのがある。
石川県白山市鶴来という町のほうらい祭りもまたその一つだろう。
GRIT JAPANで取材させていただいた菊姫の柳さんのご厚意でそのほうらい祭りにお招き頂いた。祭りは各町会ごとに手作りの山車を用意し、それで町を練り歩く。その途中ご祝儀をくれる家々の前にくるとそこで獅子退治などの演じものを披露してくれる。その度に酒が振る舞われるから練り歩く人たちはフラフラになっている。しかし高揚した空気の中でアドレナリンも大量に分泌しているから異常な興奮状態になってそれが祭りをなにか神がかったものにしている。
祭りは出すひとも見る人も地元のひとしかおらず、普段閑散を通り越して誰も歩いていないような道に人であふれかえる。この祭りが帰省の時期と決まって全国に散った同胞が帰ってくるためである。一年で一番鶴来が活気づく日なのである。
鶴来は金澤ができるまでこの地方の中心都市であったが、今は金澤一人勝ちである。金澤は金洗い沢といって金が出たのでそれを洗う沢という意味で金澤となったそうだ。うんちく。
ちなみに鶴来は元々は剣であり、江戸時代になってなぜか鶴来と当て字されて今に至る。剣のほうがよほど凛々しくてよかったと思うがいつの時代も余計なことをするひとはいるものである。それに剣は町にある金剱宮の剣にあやかっているのだからよほど由緒正しかったのに、である。
閑話休題。
さて祭りの最中菊姫本社では飲めや飲めやの宴会が行われていたが、せっかく来たのだしもう二度と来れないかもしれない祭りだから写真を撮ろうとぼくはカメラを持って表へ出た。
レンズは40ミリ一本であり、ストリートフォトグラフィーにはこれ一本で十分だ。35ミリだったらと思えば一歩下がり、50ミリあればと思えば一歩前に出ればいい。師匠も言っていた。焦点距離は足でかせげと。
写真を撮っていると鼓笛隊が通りがかって菊姫の前まできた。カメラを向けるとはっと振り返りぼくはシャッターを切った。その写真がフォトコンテストに入選したという連絡を頂いた。二位だった(ちなみに二位は五人いる)。