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【すばらしき映画音楽たち】

 

 

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の最終章がアマゾンプライムで公開されたので早速観た。オリジナルTVシリーズ最終話の完全なる焼き直しであり、なにひとつ目新しい展開もネタもなく、ここまで見どころのない映画も珍しい。無理矢理伏線を回収しようとしたあたり、これまた駄作道を極めた「スターウォーズ:エピソード9」を彷彿させるものがある。 これが興行収入100億円超えと聞いて、一番売れているビールが一番美味いビールではないという格言を思いだした。

 

 

 

前評判と「エヴァ」に対する期待を裏切られて大変がっかりしたので口直しに「すばらしき映画音楽たち」というドキュメンタリーを観たら、こちらはタイトルどおり素晴らしい映画だったので紹介したい。

 

 

 

ドキュメンタリーは映画音楽の歴史をタイムラインに置いて、著名な作曲家のインタビューでつないでいくスタイルだ。無声映画時代の音楽は劇場での生演奏であった。そのうちフィルムにサウンドトラックがつくようになると本格的な映画音楽の夜明けとなる。7080年代のスターはぼくも大好きなジョン・ウィリアムズだ。スターウォーズはジョン・ウィリアムズの音楽なしには成立しないほど、彼の音楽は映画の血肉になっていた。のちの作曲家はほぼ全員がジョン・ウィリアムズの影響を受けているといって間違いないし、実際そう答えた作曲家も映像に登場する。

 

 

 

メジャー映画のサントラを任されるというのは大変な名誉だが、同時にプレッシャーとの戦いでもあった。期限のプレッシャー、監督やプロデューサーが満足するかどうかというプレッシャーが作曲家の肩に重くのしかかる。とくに予算の大きな映画は期限の超過を嫌うため(伸びた分追加費用が各方面で発生するため)制作期限に対する要求は大きい。作曲家たちは一様に恐怖を感じ、頭が真っ白になると告白する。

 

 

 

ドキュメンタリーをみていて、アメリカ人らしいと感じることがある。それは自分のインタビュー中に他人を褒めるということである。これが、日本人なら自分のインタビューは自分のことしか言わないひとが多いのではないだろうか。あるいは言ったとしても本人のことに絞って制作者がカットしてしまう。

 

 

 

ここで、制作者の立場として弁明しておきたい。ぼくが他人の話題をカットするのは

 

(1)  本題と関係がない

 

(2)  長い

 

である。このドキュメンタリーを観ていてわかるのは、それほど無茶な編集をしていないということだ。つまり、みなさんお話が上手なのである。そのなかで、巧みにほかの作曲家の功績を称えているのはさすがであるし、普段からそういう態度で生活している証拠であると思う。自分の栄誉は他人のおかげというわけだ。

 

 

 

これは映画音楽をテーマにしたドキュメンタリーだが、ものづくりをしているひとなら皆頷けるような内容ばかりである。作品は自分の子どもである。自分の分身である。自分自身である。それが世間やクライアントがどう評価するか心底怯えている。酷評されるくらいならいっそのこと誰の目にも触れさせたくないとすら考える。しかしそうはいかない。ハラハラしながら、脂汗をかきながら、おずおずと差し出す。みんな同じである。受け入れられれば自信になる。その反対なら落ち込む。みんな同じである。

 

 

 

これは映画音楽を題材にしたクリエイターたちのドキュメンタリーである。必見。