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QUAD 405

 

オーディオの真価を測るのは難しい。それが店舗の試聴だったり他人の部屋だったりするとなかなか良さを見つけることができない。いい音なのかもしれないが、それがどう良くて、どう違うのか言葉にできない。試聴を数多く繰り返した人はその辺のコツを知っているのだろうが、めったにする機会のないひとにとってそれがスピーカーがいいのかアンプがいいのかその組み合わせがいいのかを知るのはほとんどできないのではないだろうか。やはり本当に納得する試聴がしたいとおもったら自宅でするしかない。そんな機会に恵まれた。

 

 

 

お借りしたのはQUAD405というパワーアンプである。QUADは日本語でクオードと発音されるイギリスのオーディオメーカーである。なぜクオードと呼ばれるようになったのか定かではないが、普通に読んだらクアッドである。最近ではパソコンのCPUがクアッドコア(4コア)であることも珍しくないからクアッドという読み方のほうが一般的だと思う。しかしオーディオ界隈では古くからクオードで通っているので今更クアッドと言っても通じないであろう。ぼくもクオードいうブランド名は知っていたが、今回改めて本体に書かれたスペルを見てクアッドじゃねと思った次第である。

 

 

 

405はパワーアンプなのでプリアンプが必要である。幸いぼくのアンプPRIMARE I22にプリアウトがついているので今回はこれを使用する。現代のデジタルアンプとおよそ四十年前のアナログアンプが繋がる。デジタルとアナログ。三十年ほどの時間差。それが違和感なく、機械的に問題なく接続できるのはオーディオが枯れた技術の塊である証拠とも言える。枯れたというのは、すでに完成しているということである。完成しているとはどういうことか。それは試聴して明らかになる。

 

 

 

試聴環境はこうだ。パイオニアのCDプレーヤーから光出力でStyleaudioTOPAZにつなぎ、ここでD/A変換後、PRIMARE405を経てKlipsch R51Mという順である。

 

 

 

まず最初にPRIMARE I22の音を確認する。自分の聴き慣れたCDで聴く。PRIMARE I22は骨太で厚みのある音がでる。スピード感があり歯切れがいい。繊細な描写も得意である。つまり結構いい音がでるアンプというわけだ。

 

 

 

次に405を聴く。

 

がーん。全然違う。音場の厚みが奥行き方向に深く、音が眼前に迫ってくるようである。ボーカルの透明感が高い。今までかぶっていたベールをとったように速やかに透き通った。ボリュームを上げてもうるさく感じないどころか、どんどん上げたくなってしまう欲求に駆られる。PRIMARE I22ではうるさく感じた音量域を超えてさらに上げたくなってしまう。うるさく感じるのは歪が増えるせいだと聞いたことがある。そういうことなのだろうか。うるさく感じるのはKlipsch R51Mが安物のスピーカーだからと思っていたが、405を得て水を得た魚のように歌い出したのには驚いた。

 

 

再びPRIMAREに戻して(こういうときバナナプラグは便利である)別のCDを聴き、405にして同じ曲を聴く。もうなにを聞いても405のほうが圧倒的に気持ちがいい。PRIMAREは音に厚みがあると思っていたが、それはスピーカーの面で感じる厚みであった。405の厚みはリスナーのほうへ向かってくる立体感のある厚みである。聴き比べなければPRIMAREもいい音だったが、聴き比べてしまえば405との差は歴然だった。枯れた技術、完成されているというのはこういう意味である。現代のアンプよりも四十年前のアンプのほうが音が良いのだから。

 

 

405の音に気を良くしてぼくが学生時代に買って生涯の友と考えているVictorSX-V1を持ってきた。Klipsch R51Mとの価格差は約五倍である。一体どんな音を聴かせてくれるのか。期待に胸を膨らませて設置した。

 

 

 

ところがR51MほどにSX-V1は歌い上げなかった。もちろんPRIMARE405の違いは明確に表現するのであるが、R51Mで感じた「WOW!」が来ない。これが高能率スピーカーと低能率スピーカーの違いなのか。低音の厚みはSX-V1のほうが出る。しかしそれは低能率スピーカーだから当然である。R51Mにくらべておしなべて柔らかい印象を受けた。SX-V1には405ではない別のアンプを探すべきだろう。

 

 

 

音ばかりに注目しているが、405はデザインが美しいことも重要だ。ヒートシンクを立てた直線的なデザインであるが、ものとしての佇まいが秀逸である。置いてあるだけで絵になるアンプというのはそうあるまい。405を気に入ったのはこのデザインによるところも大きい。音はいいけどダサいよねではいやなのである。

 

 

 

スピーカーをKlipschに戻して音楽を堪能する。なにしろ借り物だから返却しなければいけない。期限は今日である。今回このような素晴らしい体験の機会をくださったI氏には感謝するとともに篤く御礼を申し上げたい。

 

 

 

QUAD405導入するしかないでしょう、これは。