ハンバーグ自体にそれほど思い入れがあるわけではないのに、それがハンバーガーになると話が違う。
ファーストフードチェーンのハンバーガーは体がまったく受け付けないが、いわゆるグルメバーガーと呼ばれる
類のハンバーガーが大好きである。子どもができる前はよく妻と自転車で東京中のグルメバーガー店を巡って
食べたものだ。もう何十軒行ったかわからないが、何度も行きたいと記憶に残る店はそう多くない。
所沢に移住してよかったことのひとつは近所にハンバーガー店が二店舗あることだ。東京の下町では考えられない
好環境といえる。その二店舗のうち一軒はまだ行けていない。金曜日が定休日だったり時間が合わなかったりと
なにかと振られ続けている。今回も行ってみたらやっていなくって、だから何度か来ているほうへやってきた。
この店のハンバーガーはシンプルでおとなしく、普通に美味しいハンバーガーである。普通に美味しいとは少々失礼な
言い方かもしれないが、様々なグルメバーガーを食べてきた身からするとNot bad, but not good enoughという感想である。
良いアンプの音を知ってしまうと今までいいと思っていたアンプの音が物足りなくなるのと同じである。
ハンバーガーを三角形の紙袋に入れてかぶりつく。肉汁がしたたってバンズやらレタスやらチーズやらと渾然一体となり
口中で溶けてなくなっていく。そう美味いハンバーガーは溶けるのである。すすすす、じわじわじわじわ。
それであっという間になくなってしまう。ああ美味いなあ旨いなあ。食べている間はまさに至福の時間である。
気持ち的にはあと二つはいけるのであるが、ひとつ1500円もするから付け合せのポテトでごまかすしかない。
ボストンにも美味いハンバーガーを食わせる店があってよく行った。注文を受けてから焼き始めるのはどこも同じだが、
そこはえらく時間がかかる店だった。たいして混んでないのに三四十分は普通に待たせる店だった。だが待っただけの
甲斐があるハンバーガーが出てきた。ハンバーグの大きさは日本の二倍はあった。もう二十年以上も前のことだし、
グルメバーガーを知らない時代のことだから多分に記憶を美化している気もするが、あああれは美味かったなあと時折
思い出すのであった。