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「スマイリーと仲間たち」

 

「スマイリーと仲間たち」ジョン・ル・カレ著 

 

 

 

原題を”SMILY’S PEOPLE”という。仲間たちにしたのは少々物足りない感じがしないでもない。仲間だけではないだろうという気がするからだ。それにしても前作のスクールボーイ閣下といいジョン・ル・カレはタイトルに執着しないというかその線のセンスはなかったとみえる。もちろん中身で勝負だといえばこちらは一級品である。三部作の最後を飾るにふさわしい展開と結末が待っている。

 

 

 

いよいよ物語が佳境に入って終わりが見えてくると細かい情景描写が疎ましくさえ感じてくる。こちらはもっと先へ進みたいのだ。もっと重要な、核心をつく文字をこの目で見たいのだ。しかしそれをわざとはぐらかすように長ったらしい描写が続く。そうして読者をじらすだけ焦らしておいてついに物語は完結する。スマイリーはいよいよ目的達成を目の前にして、完璧な成就と失敗を同時に願う。勧善懲悪を理想とするひとにはとても耐えられないであろう。しかし本来人間とはそういうものではないか。ひとはだれしも割り切れないものを持っている。

 

 

 

ジョン・ル・カレのスパイ三部作は久しぶりに寝る間を惜しんで読んだ本だった。電車に乗っている間はもちろん少し長めのエスカレーターに乗れば本を開いた。そんなふうにして怒涛のように読み耽ってみて、やっぱり読書はいいなあと思った。本が楽しいとスマホをいじっている時間はほとんどないことに気がついた。ジョン・ル・カレを知ったのは、たまたまアマゾンプライムで見つけた「裏切りのサーカス」という映画がきっかけだった。幸運だった。良い本に出会った時の喜びは大きい。しかし良い本に出会うのが実に難しい。