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オウンドメディア批評 第三回 株式会社マキタのYoutubeチャンネル

 

電動工具と言えばマキタである。ぼくはDIYが好きだからいつかマキタのコードレス電動ドリルを手に入れたいと思っている。ホームセンターへ行けばたいていマキタとボッシュが棚を二分しているが、最近ではOEM製品がマキタの半額以下という恐るべき値段で売られていたりする。しかし信頼と実績を考えればマキタで決まりである。

 

 

 

技術的なことについて

 

 

 

マキタのYoutubeチャンネルは登録者数が2万人を超え、各動画の再生回数も数万回に及ぶ人気チャンネルだ。それだけマキタ製品に対する世間の注目の高さを示している。動画はほぼ100%製品紹介PVだ。そこでまず製品紹介動画(以下PV)について見てみたい。PVはテンプレートが確立している。CGと実写を使った実演映像があり、そこにナレーションによる解説がつき、バックに音楽が流れるという具合である。このように、「いつものお約束」が出来上がっていると視聴者は得たい情報のみにフォーカスできるため、見やすくわかりやすい映像ができやすい。PVとしては王道の作り方であり、十分成功していると感じる。

 

 

 

冗長なオープニングがほぼないのも視聴者を考えていて好感が持てる。実際には共通バッテリーのCGカットがあるのでゼロではないが、尺が短いのであまり気にならない。ぼくは常々ゼロ発進いきなりエンジン全開で本編開始が好ましいと思っているので、マキタの動画は見ていて気持ちがいい。

 

 

 

だけど一点だけ、どうしても気になって仕方がないところがある。それはナレーションとBGMである。言葉を飾らずに言えば、三、四十年くらい前の雰囲気がある。もちろん意図的にやっているのだと思う。わざとそうしているのだと思う。あえて昭和ムードというかレトロ調を演出しているのだろう。しかしなぜそうするのか。

 

 

 

ぼくがPVを手掛けていた頃、絶対やってはいけないことリストがあった。その一つが内輪受けである。他所様は知らないが、少なくともぼくは自分に課していたものである。これといって正解のない映像制作では、ともすると内輪受けに陥りやすいのだ。視聴者不在で盛り上がってしまうことが起こりがちになる。結果論としてそれが世間に受け入れられることもある。だけど、もしぼくなら内輪受けの空気を感じるものは企画中にすべて排除するだろう。なぜなら、そうしたノリは思考が内向きすぎると思うからである。芸術作品ならそれでいいと思うが。

 

 

 

コンテンツのことについて

 

 

 

PVはひたすら商品の機能紹介のため中身的に語ることはない。製品の特徴をわかりやすく捉えているし、見せ方もうまい。ほぼ100%こんな感じだが、中にはPVの範疇に収まらない動画が少しだけある。それはイメージビデオと言えるような動画である。「マキタアウトドアシリーズ」と名を打った動画がそのひとつだ。いくつかの商品を組み合わせてその使用風景を映像と音楽で構成している。ナレーションはない。

 

 

 

キャンプシーンにおけるマキタ製品を印象的に伝える映像企画ということだろうが、実はこれ、とても難しいです。製品個々のPVを作るより数倍難しいです。なぜ難しいのかと言えば、企業と顧客が基本的なところですれ違っているからである。これは非常によくある事例である。企業の考える良かれがぜんぜん顧客に響かないのは、顧客がまだその良し悪しを判断する以前の場所にいるからである。しかし一度顧客がその製品に興味を持ち出したときにみるのはPVであって、この手のイメージビデオではないのである。

 

 

 

イメージビデオの制作を難しくしている点はもう一つある。PVがいうなれば動く取扱説明書であり、左脳で理解する動画だとそれば、イメージビデオはその反対に感性に訴える映像を目指していると思われる。ところが、そこへ恣意的に挿入される製品群が感性への訴えの邪魔をする。イメージビデオは基本的にこの矛盾を前提として企画する必要があるのだ。だからPVを作るよりもずっとハードルが高いのである。

 

 

 

もしぼくならどうするか。そもそもイメージビデオはつくらないほうがよいと言うだろう。しかしどうしても作ることになったならばどうするかな。ストーリィ性をもたせるのは一つ手ではある。そしてそこにはマキタのマの字もでないかもしれない。そしてそこは結構譲れない部分なのかもしれない。

 

 

 

まとめ

 

 

 

人気ブランドの人気チャンネルである。ぼくもコードレス電動ドリルがますます欲しくなってしまった。動画の再生回数は製品そのものの魅力を映し出しているのだろう。製品力が強いから多くのやり方が通用するという意味でやりやすい動画であると言える。現在のテンプレートによる動画数はかなりの数に登ったので、ここあたりで新しい方向性が見てみたいものである。